不育症、着床障害関連情報 Infertility, implantation
不育症・着床障害
不育症と着床障害の原因は共通する部分が多くあります。
不育症・着床障害の研究グループ「さっぽろ不育症・着床障害コンソーシアム」に所属する他施設(札幌医大、時計台病院、斗南病院等)と連携して治療を行っています。
さらに当院は、2020年4月から「日本産婦人科学会、着床前胚異数性検査(PGT-A)の有用性に関するほか施設共同研究」に参加することとなりました。
流産は全妊娠の15%に生じます。
原因としては卵子や精子の形成過程や受精成立以降に偶発的にに生じる染色体異常がほとんどで、この場合流産は防ぐことはできません。ただ中には子宮内での胎児の発育を阻害する因子をお持ちの方がいます。
着床の課程はとても複雑であり、まだはっきりと着床の過程は解明されていないため、着床障害の原因をはっきりさせることは困難です。母体側(子宮)の原因として、不育症と共通の因子(血液凝固、免疫、ホルモンなど)が考えられています。
連続流産について
連続流産は2回以上は4.2%、3回以上は0.9%の頻度です。2回以上の流産の場合には積極的な検査をすすめています。 治療をまったく行わなかった場合,2回流産した方で次回妊娠では60~70%、3回流産の方では約50% の確率で生児が得られるといわれています。
基本検査
◎抗リン脂質抗体症候群検査 | 抗カルジオリピン抗体IgG+IgM、RPR、APTT、ループスアンチコアグラント、抗フォスファチジルエタノールアミン抗体、抗プロトロンビン抗体 |
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◎血液凝固に関する検査 | プロテインS活性、プロテインC活性、XII因子活性 |
◎子宮形態検査 | 子宮卵管造影、子宮鏡、(MRI検査) |
◎免疫能検査 | NK細胞活性 |
◎ホルモン検査 | 黄体ホルモン検査(E2,P4)、甲状腺機能検査(TSH)、プロラクチン |
〇染色体検査 | 流産絨毛の染色体検査 |
2次検査
○ご夫婦の染色体検査
○Th1/Th2検査(免疫能検査)
○慢性子宮内膜炎検査
○ERA検査(着床時期を調べる)
○ビタミンD、銅・亜鉛 検査
治療方法
◎抗リン脂質脂質抗体、血液凝固異常 | 低用量アスピリン、ヘパリン自己注射、柴苓湯 |
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◎免疫異常 | イントラリポス点滴(時計台病院と連携)、タクロリムス、柴苓湯、ビタミンD |
◎原因不明 | 免疫グロブリン治療(札幌医大と連携) |
◎子宮内細菌異常、慢性子宮内膜炎 | 乳酸菌製剤+抗菌剤 |
◎子宮形態異常 | 手術療法(札幌医大、斗南病院と連携) |
〇甲状腺機能異常 | ホルモン治療 |
〇黄体機能不全 | ホルモン治療 |
〇子宮の過活動 | 子宮収縮抑制剤 |
〇ストレス性不育症 | カウンセリング、安定剤 |
〇ご夫婦の染色体異常 | 着床前遺伝学的検査 |
着床前診断(PGT-A/SR)を希望される方へ
当院は日本産科婦人科学会の着床前胚染色体異数性検査(PGT-A) ならびにPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)実施承認施設です。
一般的に受精卵の60~70%は染色体異常で、その結果着床不全となったり、流産になるといわれています。
PGT-Aとは、体外受精により得られた受精卵(胚盤胞)の将来胎盤になる細胞の一部を採取して、染色体の数を調べる検査です。それにより、正常な染色体をもつ受精卵を選んで移植することができ、結果的に着床率を上げ、流産率を下げることで、早期の妊娠・出産を目指すことが可能となります。
当院では、日本産科婦人科学会が提示した条件に当てはまる方に対してPGT-A/SRを実施します。ご希望の方は診察時にご相談ください。
- 過去の体外受精―胚移植で2回以上臨床的妊娠(胎嚢確認まで)が成立していない方
- 過去に2回以上の臨床的流産(胎嚢確認後)を経験した方
- ご夫婦のいずれかに染色体構造異常がある方
※詳細は診察時に確認させていただき、対象外と判断される場合もあります。
PGT-Aによるメリット
- 正常な染色体の胚を選択して移植するため、移植の回数が減らせます。
- 流産する可能性が少なくなるため、妊娠までの道のりを短縮することができます。
- 移植あたりの妊娠率が上がります。
PGT-Aによるデメリット・問題点
- 本治療は保険診療適応外となるため、採卵から凍結、検査など、全ての費用は自費となります。
- 検査に使用する細胞は、将来胎嚢になる部分の細胞のため、PGT-Aの結果が正常でも自然妊娠の場合と同様に、産まれてくる赤ちゃんに何かしらの問題がある場合があります。
- 検査は、誤判定の場合が数パーセントあるといわれており、正常な胚を誤判定により異常とされた場合、本来移植に用いることができるはずの胚を廃棄することがあります。
- 受精卵(胚盤胞)の一部を切り取って検査に用いるため、その物理的刺激により移植に用いることができなくなる可能性があります。
- PGT-Aにより正常な染色体の胚を選択し、移植した場合でも、その他の原因で妊娠に至らない、もしくは流産する場合もあります。
- 検査には胚盤胞までの培養が条件ですので、検査を予定していても胚盤胞が得られない場合、採卵を繰り返し行う可能性があります。
- PGT-Aを行っても正常な染色体の胚が得られない場合、最終的に移植ができない可能性があります。
当院で上記の着床前遺伝学的検査を希望される方は、詳しい説明・遺伝カウンセリングを受けて頂きます(本間寛之医師、遠藤俊明医師)。
また、PGT-Aの詳細につきましては、さっぽろ不育症・着床障害コンソーシアムをご覧ください。
参考文献) 着床前診断に関する最新刊(2020年4月27日発刊) 「PGT-A/PGT-SR実践ハンドブック」医学書院 編集 京野廣一、遠藤俊明、笠島道子